山梨県芦川村の「鶯宿峠の両面ヒノキ」 (2000.6、小森さん)


 小森さんが友人の供養にスズランの花を探しにバイク旅行された。 その途中に、山梨県芦川村で「リョウメンヒノキ」なる珍しい巨木を 見つけて送って下さった。とてもヒノキとは見えないがヒノキの 変種であると言うことで牧野博士がリョウメンヒノキと名付けたそうである。 樹高17m、目通り幹周り4.45mで、県の天然記念物に指定されている。
 車でないと、ちょっと行くことは出来ない。中央道の甲府南で降りて、 国道358号線を南に走ると、有名な上九一色村がある。ここから東に折れて 芦川村への道を辿ると鶯宿峠である。
 最下段に小森さんの紀行文の一節をご紹介します。



 芦川村に入る頃から二度か三度目の雨が降り出し、スズラン群生地の 遥か手前で猛烈な雨足となってしまった。雨宿りする所も無く 彷徨いていると案内地図に峠の道端に「リョウメンヒノキ」 なる巨木があるのが目に入った。雨が目に入っても気にならないが 巨木となると居ても立っても居られない。どしゃ降りの雨の中を 峠目指して駆け登った。それらしいがどうも疑わしいヒノキを見つけて バイクを停め辺りを見回すと「リョウメンヒノキ」と書いた指示板が 道端に寝転がっている。その倒れた指示板の先にはどうってことのない 普通のヒノキが立っている。その奥には葛籠折れの細い山径が ずっと山頂に向かって続いている。目の前のヒノキは 余りにも当たり前の若木だから指示板は奥の山径を指しているのだと 勝手に解釈して足を踏み入れた。鬱蒼と繁る木々の梢に遮られて 日の光は届かないが流石の雨も地上まで届かなかった。 かなり急坂の葛籠折れを息を切らしながら登る。
 やはりさっきのヒノキが「リョウメンヒノキ」なのかと 何度も引き返す判断材料とすべく立ち止まるのだが、 いやここまで登ってきたのだから峠まで登ってみようという 心の中の天使と悪魔が互いに囁き合っていた。登ろうというのと 引き返そうというのがあってどっちが天使か悪魔か考え倦んでいるうちに 峠にたどり着いた。
 と、そこにはヒノキとも何とも判断に苦しむ巨木が佇んでいたのだ。 ヒノキのようでヒノキでない、コノテガシワのようでコノテガシワでない、 永く樹種不明ということで「ナンジャモンジャ」と呼ばれてきたその木は 結局牧野富太郎博士によってヒノキの変種であり、「リョウメンヒノキ」 と名付けられたのだそうな。
 先の道端のヒノキに比べて何と変哲だらけの木であることよ。 普段周囲から変人だと言われている自分にとって 妙に親しみの湧く木であった。同類相憐れむとか・・・。

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